
イギリスの作家チャールズ・ディケンズ(一八一二〜一八七〇)の『クリスマス・キャロル』にはこんな一節がある。
ご主人には、わたしたちを幸福にも不幸にもするだけの力があるんです。
ご主人のやり方しだいで、わたしたちの仕事は、軽くもなり、重荷にもなります。
楽しみにもなれば、苦しみにもなるんです。
ご主人のその力は、言葉とか顔つきといった、一つ一つはささいなことにあるのであって、数え上げて合計を出そうったって、できやしません。
だけど、どうです?
それによって与えられる幸せは、一財産を積んだって買えないくらい大きいんですからね。(脇 明子 訳)
この作品は、金の亡者である主人公が、クリスマスを機に内なる善に目覚め、新生する物語だ。
彼は、すっかり忘れていた、かつての雇い主から受けた温情を想い出し、先のように語ったのだった。
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悲しみの秘義
若松英輔 著
ナナロク社より
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