
このごろは、どんな食べ物にも賞味期限というものが明示されるようになりました。
今、日本の芸能界で大変な活況を呈しているのは、大阪の吉本興業でございます。
吉本興業のオーナーが、こんなことを言っているんです。
「芸人にもみんな賞味期限がある。賞味期限の過ぎた芸人は使い物にならない。その賞味期限をつくるのは、一人一人の芸だ」。
すごい言葉だと私は思いました。
お名前はわかりませんが、歌舞伎の役者さんで、こんな言葉を残していらっしゃる方があります。
どんな役者でも、やはり稽古というものが大事なわけでございますけれども
「一日稽古を怠ると、自分が下手になったなと思う。
二日稽古を怠ると、相手役が、ちょっとおかしいんじゃないか、下手になったよなと思う。
三日稽古を怠ると、ごひいき筋、お客さんが、おかしくなったんじゃないか、下手になったんじゃないかなと見抜いてしまう」
というんですね。
そのお客さんに見抜かれた怠け心というものを取り返すことは至難の業だと言っております。
そう思えている間はいいけれども、それがわからないときがある。
それほど自分を見る目がなくなってしまうときがある。
大根役者という言葉は、下手な役者を言うのではなくて、自分が下手になったことに気付かない人を、大根役者と言うんだということを、私は一人の役者から聞いたことがございました。
自分が下手になったことをわからずに、拍手に酔っている人。
賞味期限がきているのにわからない人。
それを大根役者と言う。
食べるものにも賞味期限があるように、私たちにも賞味期限がある。
そういう意味では、一日、一日、私は賞味期限ではなかろうかと思うんであります。
「板に付く」という言葉がありますけれども、これはね、舞台の言葉なんだそうですよ。
舞台に最初に出ると声が出ない。
そしてだんだん慣れてくると、声が出るようになる。
それが「板に付く」、舞台に足がきちっと座る。
足の裏から声が出るようになって一人前だと言うんです。
舞台についている足の裏から、声が出る。
それまでは、やっぱり稽古を怠ってはならない。
そこまで行くまでに、立派な役者になるのか、落ちていくのかが決まるんだと言うことも、お聞きしたことがあります。
人ごとではないなということを感じさせていただきました。
引用:石川洋 著
『やるなら決めよ 決めたら迷うな』勉誠出版
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