一流の素材より、二流のプロ

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間違う いいため話
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約十年ほど前、英語学習雑誌の編集者にこんな話を聞いた。

「うちの読者はみなさん、すごくまじめなんです。アメリカやイギリスを旅行したい、留学したいと思って一生懸命、英語を勉強するんですが、どれだけやっても『まだ英語力が足りない』と思ってしまい、いつまでたっても現地に行けない。そういう人がすごく多いんです」

もはや何のために英語を勉強しているのかわからず、本末転倒も甚だしいが、これを笑う気にはなれない。

私も、たまたま大学で探検部に入ったために変な方向にそれてしまったが、もともとの気質からいえば、こちらのタイプだからだ。

このタイプは、理想やプライドが高い。何かやるからには極めなければいけないと思っている。二流を認めず一流をめざす癖がある。そして、理想の高さゆえに、なかなか第一歩が踏み出せない。

こういう人は頭の中でいろいろシミュレーションをするのが好きだ。

シミュレーションしすぎて、悪い想像力も働くので「強盗にあったときリスニングが悪いと命にかかわるかも」なんて思って、また英語の勉強に励むということになる。

アメリカ行きが恋愛や仕事に変わっても同じだ。

「もっと自分を磨いてから相手にアプローチしよう」とか「もっとちゃんと準備してから店を出そう」などと考える。

このタイプには研究熱心な人が多いから、知識は増える。批評眼も肥える。

やがて、いろいろと一家言をもつようになり、プライドはますます高まる。

同じ一流でも、実行しないかぎり「一流の素材」にとどまってしまうのだが、それがまた「未完の大器」みたいな錯覚がして気持ちよかったりもする。

どの世界もやったもの勝ちである。

いくら猛練習を積んでも絶対に試合に出ない野球選手に価値はない。

一流の素材より、二流のプロのほうがずっとマシである。

最初から一流でなく二流をめざすべきとはそういう意味で、自分に言い聞かせているのである。

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間違う力

高野秀行 著

角川新書