井上智洋「シンギュラリティは近い」

パソコン いいため話
画像:http://gahag.net

近年の技術進歩の速さには目を見張るものがあります。

しかも、その速度は今後ますます高まっていくことでしょう。

とりわけ「人工知能」は、私たちの生活、社会、経済に大きな影響を及ぼすでしょう。

そうい意味で、21世紀は間違いなく「人工知能」の世紀になると思います。

「人工知能」というのは、コンピュータに知的な作業をさせる技術のことです。

最も身近な人工知能として、iPhoneなどで動作する音声操作アプリの「Siri」が挙げられます。

私も利用しており、Siriに「8時に起こして」などと命令すると、その時間にちゃんとアラームを鳴らしてくれます。

人工知能の発達にともなって、私たちが当たり前に思っている身の回りの事々も変わっていくでしょう。

例えば、トヨタやホンダなどは、東京オリンピックが開かれる2020年を目処(めど)に、人工知能が人間に代わって運転するセルフドライビングカー(自動運転車)の実現を目指しています。

2050年には全ての自動車がセルフドライビングカーになっているという予測もあります。

わかりやすい変化をもたらす技術として、セルフドライビングカーとともに自動通訳や自動翻訳が挙げられます。

人工知能の第一人者である東京大学の松尾豊准教授は、2025年頃にはコンピュータが意味をちゃんと理解して、自動翻訳や自動通訳を行うことができるようになると予想しています。

2025年以降の世界では、日本企業の海外進出も海外企業の日本進出も今よりも格段に容易になり、真のグローバリズムが訪れることになります。

あるいはまた、学生は英語を学ぶ必要がなくなるかもしれません。

英語が大学の必修科目からはずれ、一部の物好きな学生が選択するマイナーな科目になり下がるということも起こり得ます。

しかし、そうしたイメージし易い身の回りの変化が瑣末(さまつ)な出来事としか思えないくらいに、2030年以降の人工知能は経済や社会のあり方を大きく変えてしまうのではないかと私は予想しています。

なぜなら、ちょうど2030年頃に「汎用人工知能」の開発の目処が立つと言われているからです。

「汎用人工知能」というのは、人間のように様々な知的作業をこなすことのできる人工知能です。

今の世の中に存在する人工知能は全て「特化型人工知能」であり、一つの特化された課題しかこなすことができません。

SiriはiPhoneなどを操作する目的に特化された人工知能です。

将棋をする人工知能は将棋だけに、チェスをする人工知能はチェスだけにそれぞれ特化されて作られています。

特化型人工知能の及ぼすインパクトは、耕運機や自動改札機といったこれまでの機械と質的にはそれほど変わりがないかもしれません。

近頃、人工知能が仕事を奪うという問題が盛んに取りざたされています。

実際、セルフドライビングカーや人工知能を搭載したドローン(無人航空機)による配送の普及によってタクシー運転手やトラック運転手、配達員が失業する恐れがあります。

しかし、人間は、機械に仕事を奪われても、機械に対し優位性のある別の仕事に転職することができます。

その点、セルフドライビングカーでも自動改札機でも変わりありません。

ところが、人間と同じような知的振る舞いをする汎用人工知能が実現し普及したならば、既存の技術とは質的にも異なる変化がもたらされると考えられます。

というのも、あらゆる人間の労働が汎用人工知能とそれを搭載したロボットなどの機械に代替えされ、経済構造が劇的に転換するからです。

『人工知能と経済の未来』文春新書