
ある町に、焼き鳥屋横丁というのがあります。
どういうわけかその横丁には昔から、焼き鳥屋ばかりが十軒近くも並んでいます。
じつは、かつて、ここの焼き鳥屋同士は仲がとても悪く、激しくいがみ合っていたのです。
商売敵ですから、お客の奪い合いをひたすら繰り広げていたのです。
やって来るお客さんに「あの店は古い鳥を使っている。健康に悪いから行かない方がいい」とライバル店の陰口を流し合ったりしていたのです。
時には通りの真ん中で、店主同士で口げんかを始めることもありました。
そういうギスギスした雰囲気に嫌気が差してきたのでしょう、やがて焼き鳥屋横丁からはお客さんが離れていきました。
どのお店も、閑古鳥が鳴く有様になりました。
そして「このままではいけない。もういがみ合うのはやめて協力し合おう」という意見が出て、みんなで話し合う機会を持ったそうです。
しかしその席でまた、「お前の店には、こんな意地悪をされた。まずそれを謝れ」「いや、お前のほうこそ先に謝れ」と、口げんかになってしまいました。
その時にリーダー役の人が、こう述べたそうです。
「過去の恨みのことを言い始めたらキリがない。どうだろう、過去のことはすべて忘れ去って、みんなで新しくスタートを切ることにしよう」と。
そのリーダーの意見にみんなが賛同したことから、焼き鳥屋横丁の各店では共同で広告を打ったり、サービスデーを設けたり、横丁全体でイベントを催したりして、今では全店が協力し合ってがんばっていると言います。
おかげでお客さんも戻るようになり、以前にも増してどの店も繁盛しているとのことです。
引用:「商い」で成功した江戸商人「ビジネス」で苦しむ現代人
植西聰 著
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