セブン&アイ・ホールディングス会長「新しいことを始めるときに重要なこと」

banner02
コンビニ いいため話
画像:u-note.me

なぜ、新しい仮説は勉強からは生まれないのかといえば、勉強をすればするほど、過去の制約条件を学ぶことになり、問題がどんどん複雑になってしまうからです。

もちろん、勉強により知識を得ることがまったく不必要なわけではありません。

ただ、誰もやったことのない新しいことを始めるとき、それが成り立つかどうか、誰もわかりません。

そこで、人は勉強しようとしますが、その場合の勉強とはどのようなものかと突きつめると、結局、過去の経験の積み重ねをなぞるにすぎないことが多いのです。

もし、わたしが日本初の本格的なコンビニチェーンの事業を始めようと思ったとき、その意味で勉強していたら、いまのセブン-イレブンは存在しなかったでしょう。

大学教授も経営コンサルタントなどの専門家たちも、コンビニエンスストアという、もともと日本になかった業態について、「コンビニエンスストアとは要するに“街のよろず屋”ではないか」と決めつけ、「30坪程度の小さなよろず屋のチェーンをつくろうというのはどういうことか、そのような店は大型店に対抗できないではないか」と反対を唱えました。

何でも品揃えしているスーパーの進出により商店街が衰退している状況において、「30坪程度の小さなよろず屋」チェーンをつくるとなれば、いかにも難しそうな話に聞こえます。

わたしはそうした専門家の意見については、勉強しようとしなかったからこそ、小型店でも商品の価値と生産性を高める仕組みを導入すれば、大型店と共存可能なはずだという仮説を立てることができました。

セブン銀行設立の際、グループ内部からも反対の声が少なからずあがったのは、学者や金融コンサルタントなど専門家たちから、「銀行のATM部門はコストセンターである。そのATM手数料を収入源にする銀行など成り立つはずがない」という話を聞き、勉強しようとしたからです。

一方、わたしたちにしてみればセブン-イレブンでの公共料金などの収納代行サービス取扱額が増加の一途をたどっているのを見て、次はコンビニにATMが設置されるのをお客様が望むと考えるのはごく自然のなりゆきでした。

結局、専門家が反対したわけは、これまでにない新しいことについて、どうすればそれが成り立つのか、自分たちの既存の知識や常識では答えが出せなかったからです。

人は自分では答えを出せないことに反対します。

わたしたちが常に心に命じなければならないのは、前例のないことに挑戦し、自分たちで答えを探してみようとするときに、答えを出せない人の話をいくら聞いて、勉強しても仕方がないということです。

新しいことを始めるときに、一生懸命、勉強しようとする人たちのもうひとつの傾向は、過去の事例をもとに、最初から完璧なものをめざそうとすることです。

たとえば、セブン銀行のATMは低コスト化が最大の課題でした。

既存の金融機関では、「預金者が求める機能をもつATMをつくるにはこれだけのコストがかかる」という発想であったため、1台で800万円と高級外車が買えるくらいの高額な機械になっていました。

最初からもし、“完璧なATM”をつくろうとしたら、セブン銀行は設立できなかったでしょう。

結果として4分の1の200万の価格に抑えることができたのは、お客様が求めるものを見きわめ、最低限必要な機能は何かを突きつめて、それが実現できればOKであると、お客様を起点にして単純明快に発想したからでした。

新しいことを始めるときに重要なのは、何が必要なのかを見きわめ、必ずしも最初から完璧で絶対的なものをつくる必要はないということです。

『働く力を君に』

セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO、鈴木敏文氏

講談社