元ソニー社長が教える「知らないことを知らないという勇気」

人間関係 いいため話
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人づき合いにおいて、たったひとつのルールがあるとすれば、「知ったかぶりをしない」に尽きると思う。

僕は42歳で大きな「リポジション」をして文系の世界から理系の世界に、オーディオ事業部長になるわけだが、それまでにも理系の人たちとはたくさんのつき合いがあった。

そこには10歳以上、年上の技術者も含まれていた。

設計の現場に、技術者ではない人間が足を運ぶことはほとんどない。

そこで僕は、そういう現場に行く機会があるときには、質問を考えて持って行った。

「○○の仕組みについて、教えてほしい」。

すると、相手もとても喜んでくれた。

丁寧に教えてくれるのだ。

事業部長になって改めて思ったことがだが、専門的な知識を持っている人に対して知ったかぶりをすることは、極めて危険なことである。

とはいえ、事業部のトップにいながら「知らない」と告白するのは勇気のいることだった。

誰一人として知り合いがいない。

しかも初めての文系出身の事業部長である。

「どうしてこんな文系の人間に仕切られなきゃいけないんだ」という思いを、間違いなく技術者たちは持っていたと思う。

僕はさまざまな場面で、試されることになった。

おそらく、彼らは僕の知識がどの程度のものなのかだけを試していたのではない。

僕がどんな人間かを試していたのだ。

そこで必要だったのが、「知らないことを知らないという勇気」だった。

むしろ、妙な自慢やわけ知り顔はご法度である。

わからないことをわからないと素直にいうと、親切に教えてくれた。

けなげな質問を繰り出したりすると、ますます一生懸命になって教えてくれた。

結果、僕の力になってくれて、とてもいい関係を築くことができた。

今もつながりが続いている人も少なくない。

知ったかぶりをしないということは、相手への敬意を示す行為でもある。

「教えてください」という態度で人に接することで、多くの人に助けられてきた。

知ったかぶりをしないのは、仕事だけではない。

大好きなワインにも通じるところがある。

ワインに詳しくて、何かといえば、うんちくを披露する人がいる。

「これは○○産で、○○のぶどうを使っていて、ラベルの絵は…」。

ワインに詳しいのはいいけれど、実のところ、聞いているほうは退屈だったりする。

ところが本人は、周囲がそう思っていることに、まったく気づかないのである。

本当にワインに詳しい人は、お店で講釈をたれたりしない。

なぜなら、お店にはワイン選びのプロであるソムリエがいるからだ。

むしろワインに詳しい人ほど、プロの話を聞きたがる。

そして同席していると一緒になって、ソムリエの話を楽しんでいる。

引用:変わり続ける
出井 伸之 著
ダイヤモンド社