
「いいこと」は、簡単に「悪いこと」になる。
ということは「いいこと」の集大成みたいな「道徳」の内容だって、時代と一緒に変わっていかなきゃおかしいのだ。
ところが世の大人は、自分が子どもだった頃の、昔ながらの「道徳」を子どもに押しつけたがる。
「いいこと」は永遠に不変だと信じているからだ。
そうやって大昔から、年寄りというものは、若者の行儀だの道徳観だのに難癖をつけ続けてきた。
エジプトのピラミッドだか神殿だかに、象形文字で「今の若い者はなってない」という落書きがあるという話もあるくらいだ。
もしそれがほんとうなら、今頃は若者の行儀も道徳観も、とんでもないことになっていなくちゃいけないはずだ。
だけど、実際にはそうなっていない。
世の中の変化とともに、人や世界とのつきあい方が少しずつ変わっているだけのことだ。
世の中は別に悪くなんかなっていない。
子どもたちの道徳観念が乱れているわけでもない。
いやむしろ、より道徳的になっているといってもいいかもしれない。
引用:新しい道徳
北野武 著
幻冬舎
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