プロの棋士から学ぶ【運】の磨き方

いいため話 将棋
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見えない力といえば、運というのも勝負と深く関わっていると思いますね。

私は、一人ひとりが持っている運の量っていうのは平等だと思うんです。

そして、運が悪い人というのは、つまらないところで使っているんじゃないかと思うんです。

将棋の棋士を見ていると、例えばトップクラスの棋士がやっぱり一番将棋に対する愛情、敬意を持って接していますね。

対局前の一礼にしても、羽生さんをはじめとするトップの人ほど深々と礼をするんです。

その姿勢は相手が先輩でも後輩でも変わらない。

そして対局後に「負けました」と言うのは一番辛いですけれども、それもやっぱり強い人ほどハッキリ言うんですね。

それから、棋士の中には対局開始前ギリギリにやってくる人もいます。

さすがにトップ棋士は対局の十分、十五分前にはちゃんと対局室に入るけれども、そういう心掛けのできていない人は、電車が遅れたりしたら大変です。

なんとか対局に間に合ったとしても、その人はそこで運を使い果たしていると思うんです。

将棋も囲碁も先を読みますが、どんなに頑張ってもどこか読みきれない部分があります。

そういう最後の最後、一番大事なところで運が残っているかどうかというのが非常に大事だと思うんです。

ですからどんな対局であっても、与えられた条件で最善を尽くして運を味方につけることが大事です。

対局の持ち時間を残して勝負をあっさり諦めるような人は、やっぱり成績も振るわないし、最後の最後の大事な場面で勝ちを逃がすことが多いような気がします。

どんなに酷い負け方をしても、翌朝には盤の前に自然と座れることが大事で、やけ酒を飲んで次の日を無駄にしてしまうような人は、やっぱりだんだん差をつけられていくんでしょうね。

私は最近「心想事成(しんそうじせい)」という言葉が好きでよく揮毫(きごう)させていただくんです。

心に想うことは成るという意味ですが、そのためには平素からどれだけ本気で勝負に打ち込んできたかということが大切だと思います。

真剣に、本気で打ち込んできた時間が長く、思いが強い人ほどよい結果を得ることができるし、そのための運も呼び寄せられるのではないでしょうか。

勝負の神様はそういうところをきちんと見ておられるし、それはその対局の時だけでなく、普段の生活すべてを見ておらえると思うんです。

もちろん人間ですから一日中将棋のことを考えているわけにはいきませんが、体の中心に将棋というものが軸としてあるか、そこが問われると思います。

いまから三十年くらい前でしょうか。

もうお亡くなりになった芹澤博文九段からご存命中に言われて、凄く印象に残っている言葉があります。

「谷川、おまえは運がいい。

そのことをありがたいと思いなさい。

運のいいことが当たり前だと思うようになったら、もうその運は逃げてしまうんだ」

いまの自分の立場は凄く恵まれている、それに感謝する気持を忘れてはならない、と常々自分に言い聞かせているんです。

“この道、一筋に生きる” 対談、井山裕太(囲碁六冠)&谷川浩司(日本将棋連盟会長)

『月刊致知 2014年2月号』致知出版社