
私はよく、科学には「デイ・サイエンス」と「ナイト・サイエンス」があると言います。
「科学」の一般的なイメージ、つまり、仮説にもとづいて綿密に実験を繰り返し、実証を積み重ねていくというのは、「ディ・サイエンス」です。
このように理性的、客観的な科学は、いわば科学の「表の顔」です。
では「ナイト・サイエンス」とは何か。
それは、ひとことで言えば、直感やインスピレーションがものを言う、科学の「裏の顔」です。
科学者がこんなことを言うと、驚かれるかもしれません。
しかし、科学には、確かに、計算とは違う次元で働く力によって大きな進歩がもたらされるという一面があるのです。
そこで大切なのが、コミュニケーションです。
ずっとこもっていた研究室から飛び出し、さまざまな人と出会い、新しい刺激や情報を得る。
そこから新しい発想が生まれ、大きな発見につながっていきます。
「ナイト・サイエンス」の可能性を強調するのは、やはり、研究をするうえでも、仕事をするうえでも「情報」がいかに大切かということを言いたいからです。
じつは、環境の変化と同時に、情報は遺伝子のオンに深く関係しています。
この情報化社会に情報が大事というのは当たり前のように思えるかもしれません。
しかし、私が言っているのは、インターネットを検索すればいくらでもでてくるような、手に触れられない「情報」のことではなく、人とじかに向き合って得る「人的情報」のことです。
人と腹を割って話せる「ナイト」にこそ、いまの仕事をより充実させる可能性が潜んでいるというのも、そのためなのです。
たとえば、仕事後の一杯やパーティーなどの場、すなわち「ナイト」の場で耳をそばだてる。
こういうところで、ふと得た小さな情報が、以後の仕事に大いに役立つことがあるのです。
私と一緒に研究をしていたある日本人は、パーティーに行くと、ろくに食事もせずに情報集めに専心していました。
ホテルで開かれるセミナーに行っても、用意された個室には泊まらず、大学院の学生たちと夜通し語ります。
「一つの情報が人生を変えるかもしれない」と言って、情報収集に専念しているのです。
研究にしても仕事にしても、できる人というのは、例外なく情報収集がじょうずな人だと思います。
そういう人は、有益な情報はどんなに小さくても見逃しません。
それにはもちろん、玉石混交(ぎょくせきこんこう)の中から有益な情報を選び取る能力も必要ですが、まずは、どんなことも漏らさないように、きめ細かくアンテナを張っておくことだと思います。
『そうだ!絶対うまくいく!』PHP文庫
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