
桀王や紂王は天下を失ったが、それは、人民を失ったということである。
人民を失ったとは、人民の心を失ったことである。
天下を手に入れるにはどうするか。
人民を手に入れればよい。
人民を手に入れるにはどうするか。
人民の心を手に入れればよい。
人民の心を手に入れるにはどうするか。
人民の希望を満たしてやり、いやがることを押しつけないことである。
人民が仁徳を慕うのは、ちょうど水が低い方へ流れ、獣が広野をかけまわるように自然なことである。
獺(かわうそ)は魚をおびやかして深い淵へと追いやる。
鷹は雀をおびやかして繁みの中へ追いやる。
桀王と紂王は人民をおびやかして湯王や武王のもとに追いやったのだ。
もし、仁徳を好む君主があらわれれば、諸侯は人民をその君主のもとに追いやることになる。
そうなれば、その君主は、自分では望まなくても王にされてしまう。
ところでいまの諸侯たちは、王になりたがっているくせに、そうしない。
ふだんからの用意がなければ、望みがかなわぬままに死んでしまう。
平素から仁徳に心がけなければ、死ぬまで苦悩と屈辱がつきまとう。
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中国の思想〔Ⅲ〕孟子
今里禎 訳
徳間書店
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