
西田天香(てんこう)氏は石川洋さんに、「やさしいだけではだめだ。やさしさのために人を迷わす」と言ったという。
「やさしいから仏性ではない。
強かろうと思ってなれないやさしさは、情魔を含んでいる。
では、どうしたらよいか。
与えられたことはどんな苦しい、意に沿わないことでもめげちゃいけない。
焼け火箸(ひばし)を握りしめて離さない稽古(けいこ)をすること。
それが生きることだ」
石川さんの声は澄んでいた。
しかし、雷鳴のような力で胸に響いた。
新しい命を生きんとする決意に満ちていた。
もう一人は鍵山秀三郎さんの話である。
「会社を永続するには、人から感心されるような程度のことをやっていてはだめ。
人から感動される人間にならなければだめ。
どうしたらなれるか。
自分にとって割の合わないことを笑顔ですすんで引き受けていく、それを続けていくこと。
その時、人はよくあそこまでやったなと感動してくれる」
「割りに合わないことほど、将来よいことが起こる種まきになる。
逆に都合のいいこと、利益が出ることをやって、人からうまいことをやっているなあと思われるようなことをしていると、長い目で見ると、いいことが起きない。
逆にマイナスのことが次々と起きてくる」
40余年下座行(げざぎょう)に徹してきた人の言葉は、心に深く染み入った。
また、鍵山さんはご自身が感銘を受けた言葉も紹介された。
「困難と失敗を同一視することほど危険なものはない。
いまはまだ困難なだけで失敗ではない」
困難なことが起こると、普通、人はそれを失敗と思ってしまうが、そうではない…実践者の苦闘から生まれた叡智(えいち)の結晶のような言葉である。
鍵山さんは最後の言葉をこう締めくくられた。
「どんなにいい教えを受けても、どんなにいい話を聞いても、その受け止め方、それを自分の人生、事業にどう生かしていくか、その差は天と地ほどの開きがある」
言葉の力は、発する者、受ける者の力量の相乗によって導きだされることを私たちは知らなければならない。
『小さな人生論 3』致知出版社
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