「おれのいうことを黙って聞いていればいい」というリーダー

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リーダー いいため話
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多くの人がカン違いしているのだが、「おれのいうことを黙って聞いていればいい」という日本でありがちなリーダーのやり方は、決して「トップダウン」ではない。

では、真のトップダウンとは何か。

情報を隠すことなくオープンにしてすべての人と共有すれば、誰もが同じ判断にいたる。

すべての情報を上から下まで共有することで、誰もが同じ判断のもとで動き、社が一丸となって同じ目的に邁進(まいしん)する状況をつくり出せる。

その上で、早い判断をしていく「トップダウン」なのである。

アブラショフ(本書の著者)氏は、艦長時代、同じようにすべての情報を部下に対して開示し、情報を共有した。

無線で上司と話をするとき、全艦にそのやりとりをオープンにして部下に聞かせた。

上司を説得してくれと、部下たちは手に汗を握りながら聞いていただろう。

説得できなければ、「残念だな!」となるし、うまくやったら全員がワ―ッと声を上げ、手を叩いて喜ぶ。

その一体感が、全員の士気を上げ、艦全体を盛り上げていったのである。

アブラショフ艦長は、与えられた環境を最大限に活かし、味方につけていく天才であり、同時に艦の成果を何倍にもする素晴らしいリーダーであった。

日本のリーダーシップのあり方というのは、いまだ「GPS指導型」が主流だ。

「ホウ・レン・ソウ」、つまり「報告・連絡・相談」を重視する。

「現状を報告しなさい」

「では、まずこの問題に、このように対処して、できたらまた報告しなさい」

といった調子で、上司はさながら部下の「GPS」であるかのように、現在地点から次のステップへ行く方向も、手順も、すべて導いてしまうのである。

部下は「GPS」にしたがうだけ。

みずから考えて行動する機会を与えられず、答えだけを知ってしまう。

その仕事で成果を出したとしても、なにも学べず、なにも身につかない。

まさに「指示待ち人間」を一生懸命につくり出しているのだ。

本来、リーダーシップとは、「AI育成型」であるべきなのだ。

「AI」とは文字どおり、「人工知能」のこと。

人工知能は、そこに人間が知識を詰め込んだだけでは、人工知能たり得ない。

知識をもとに、AI自身に「学習」させるというプロセスを踏む必要がある。

人間も同じなのだ。

その仕事に明確な正しい解があるなら、マニュアル化して誰でも間違いなくこなせるようなしくみをつくればいい。

いわゆる「形式知」である。

しかし、「暗黙知」、つまり言語化できない、経験やカンをもとにした知識を自分のものにするには「AI」のごとく自分で習っていくしかない。

仕事における暗黙知の比重は、とても大きい。

「舵(かじ)をとれ。ただし航路は外れるな」

と、アブラショフ氏は書いている。

リーダーは部下に対して、自由に裁量できる権利を増やすと同時に、絶対に越えてはならない一戦を示さなければならない、という意味だ。

「ここへ到達するまではお前に任せるから、やりたいように舵をとれ。ただし、航路から外れないようにチェックは入れるぞ」

これこそ「AI育成型」のリーダーだ。

しかし、「GPS指導型」の上司は、

「おい、ちょっと右に行きすぎだぞ」「今のうちに、左に舵を切っておけ」

と、途中でいちいち指示を出す。

いわれたとおりに動くだけの部下は、なにも学べない。

この「AI育成型」のやり方で仕事を叩き込まれた人間は、自分で考え、行動し、失敗も成功もその経験を糧にしながら、着実に成長していく。

昨日反発していた部下たちが急に慕ってくるような、速効性のある一発逆転の“魔法(マジック)”のようなリーダーシップなどこの世に存在しない。

彼は、日々、地道にコツコツと、部下のことを思い、部下のためにできることを考えて、前例のない行動を起こし続けた。

海軍兵学校を出たばかりの新人は、配属される艦が決まると、自己紹介をかねて艦長に手紙を書き、返事をもらうのが習わしなのだそうだ。

しかし、彼は新人のとき、艦長から手紙の返答をもらえず、不安な日々を過ごした。

その経験から、自身が艦長になったとき、彼は新任の乗組員の配属が決まると、彼らの便りをまたずして、自分から歓迎の手紙を送った。

仕事の内容や配属までに準備をしておくこと、赴任地の情報、それに艦名入りのキャップまで送ったそうだ。

こうして迎え入れられる新人たちは、どれだけ心強かっただろう。

艦に足を踏み入れ、艦長と言葉を交わすその日を楽しみに待ったのではないか。

アブラショフ艦長は、このように地味で手間のかかるやり方を各方面で貫いて、部下を味方につけていった。

『アメリカ海軍に学ぶ「最強のリーダー」』(マイケル・アブラショフ著・吉越浩一郎訳)三笠書房