
《人生は椅子取りゲーム。満員電車に乗り込み、あきらめて途中下車せずに立ち続けていたら、あるとき目の前の席が空いた。》
漫画家として独立したあと、舞台演出、詩の雑誌の編集や絵本づくり、テレビ出演など、頼まれるままにいろんな仕事をしてきた。
漫画の代表作がないままに、多くの先輩・後輩の活躍をさびしく目で追う日々が続いた。
それでも漫画家であることをやめず、ぎゅぎゅう詰めの満員電車のように才能がひしめく漫画界に、あきらめることなく立ち続けていた。
すると、あるとき、目の前の席が空いた。
70歳になる直前、アンパンマンのアニメ化の話が持ち込まれ、それから一気にブレイクしたのだ。
「継続は力なり」というが、あきらめないでひとつのことを思いを込めてやり続けていると、ちゃんと席が空いて、出番がやってくるものなのだ。
今でこそ、オイドル(ぼくの造語で、「老いたるアイドル」の略)なんて言って楽しく仕事をしているけれど、人生は失意の連続だった。
特に30代から50代ごろまでは、絶望のトンネルの中にいた。
「これが代表作だ」といい切れるものがない。
歌手に持ち歌があるように、漫画家は誰でも知っている人気キャラクターを持たなければ、存在しないのと同じなのだ。
代表作を作りたい。
漫画家としてのアイデンティティを持ちたい。
そんな長い間の願いがかない、アンパンマンの人気が高くなったのは、なんと70代に入る直前、69歳のときだった。
遅咲きも遅咲き。
よく「大器晩成」とおだてられるが、いやいや、「小器晩成」の典型だ。
でも、大器でも小器でも、いいじゃないか。
せっかく生まれてきたのだ。
絶望するなんてもったいない。
なんとかなるさと辛抱して、とにかく生きていくんだ。
人生は捨てたものではない。
やがて道は拓けてくる。
それが実感だ。
『明日をひらく言葉』PHP文庫
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