
「韓非子」の「説難」篇の中には、臣下が君主を説得することの困難さについて述べたくだりがあります。
「龍という生きものは、おとなしくしているときには、飼いならして背中に乗ることもできる。
けれど、龍の喉元には、『逆鱗』と呼ばれる鱗が逆さに生えた部分があり、もし人がそれに触れると、龍は怒って、その者を間違いなく殺してしまう。
君主にも同じように逆鱗がある。
意見を述べる者は、逆鱗に触れないように心がけるべきである。
君主の逆鱗に触れないように説得することこそが、成功への近道である」
太宗は、この故事を引用しながら、家臣が誠意を持って諫言することの大切さを説いています。
「私はこういうことを聞いたことがある。
龍は飼いならし、手なずけることができる。
しかし、龍の喉元の下には逆さに生えた鱗があり、この鱗を触った者は龍に殺される。
君主にも逆鱗があって、君主の意向に背けば、君主の激怒を招くことになる。
しかし、あなたたちは、逆鱗を触れることから逃げず、各自が私に意見書を出してくれた。
今後もあなたたちがこのようにしてくれたら、国家が傾く心配はない」
人間は感情の動物なので、ついカッとなってしまうことがよくあります。
太宗は、自分にも逆鱗があることを認めた上で、「極力、怒らないように自制するし、人の話を聞くように努めるから、おまえたちも、逆鱗に触れることを恐れずに、思ったことは何でもいってほしい」と願いを求めているのです。
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座右の書『貞観政要(じょうがんせいよう)』
出口 治明 著
KADOKAWA
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