
女が一人夜の空港で待っていた。
飛行機が出るまであと、数時間。
女は空港の売店で本をあさり、クッキーをひと袋買って、腰をおろした。
夢中になって本を読んでいるうちに、ふと気づけば横にいる男が、こともあろうに、二人の間に置いた袋から、クッキーをつまんでいる。
女は騒ぎを起こすのがイヤだったから、知らんぷりを決め込んだ。
女は本を読み、クッキーをかじり、時計をみていたが、呆れたクッキーどろぼうは、クッキーをどんどん食い荒らしてくれる。
刻々と時間がたつにつれ、女のいらいらはつのるばかり…
私がこんないい人でなきゃ、ぶんなぐってやるわ。
女がクッキーを一つとれば、男もまた一つ取る。
最後の一つが残ったけど、この男はいったいどうする気だろう?
男は、頬をゆるめ、わざとらしく笑うと、最後のクッキーを手に取り、二つに割った。
その一つを女に差し出し、残りを男は食べた。
女は男からクッキーのかけらをひったくると、内心思った。
「ああ、なんてやつ。この厚かましき、この恥知らず、一言のお礼も言わないなんて!」
こんなに腹が立ったのは、生まれて初めてだわ。
出発便が呼ばれたときには、ほっと安堵のため息が出る始末。
荷物をまとめて、ゲートに向かい、
「恩知らずのどろぼう」には目もくれずに立ち去った。
女は飛行機に乗り、座席に身を沈め、やおら本を捜した、あともう少しで読み終わるわ。
荷物をまさぐった女は、驚いて息をのんだ。
なんと、自分が買ったクッキーがある!
「私のクッキーがここにあるなら…」
うちのめされて彼女はうめいた。
「あれはあの人のだった、それを私に分けてくれた…」
謝ろうにも手遅れだと、女は悲しみに身もだえた。
自分こそ、恥知らずの、恩知らずの、どろぼうだった。
引用:「心のチキンスープ3」
ダイヤモンド社 ジャック・キャンフィールド著
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