
和子ちゃんは、4Bの鉛筆が短くなるまで使っている。
他の鉛筆は長い。
先生が和子ちゃんの筆箱を見て言った。
「長い鉛筆を使えばいいじゃない」
それでもその子は、「私はこのほうが楽なの」と言って、他の鉛筆を使おうとしない。
最後にその子は、「長いのは使いたくない、この短いのは先生にもらったの」とポロッと言った。
自分のやさしさを先生に売り込む気なら、初めから、「これね、先生にもらったの」と言うはずである。
ここにその子の、表現しない心のやさしさがある。
その子が売り込みをしないで、先生もその子に関心がないなら、そのやさしさに気がつかない。
言葉はあっさり、表現はあっさりしているけど、心に秘めたやさしさがある。
それは、両方が関心を持たないと、見えないやさしさかもしれない。
その子は、自分の中で納得している。
それでいいと思っている。
そういうやさしさもある。
こういうやさしさは、近所で「礼儀正しい子」と評判にはならないだろう。
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やさしい人
加藤諦三 著
PHP研究所より
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