
企業経営にとって一番大事なものとは、いったい何でしょうか?
それは高邁(こうまい)な「経営理念」にほかならないと、私は思います。
こういう趣旨のことを申し上げると、「食うか食われるかのこの時代に、何を青臭いことを言っているのだ」という声が聞こえてきそうです。
「いみじくも経営をまかされた者が、人間としての素直さ、“青臭さ”を失ったらおしまいではないでしょうか」。
これが、私の基本の思いのひとつです。
確固たる理念を持って経営にあたっているならば、そしてそのことを従業員に理解してもらう努力を重ねているのならば、
企業が社会を騒がせるような不祥事にまみれることなどということは、絶対にありえないのです。
「儲けるためなら、何でもやれ」。
こんなことを会社の理念、社是社訓にうたっている企業が、果たしてあるでしょうか。
絶対にありません。
多くの企業が世の中への貢献と顧客指向を掲げています。
しかし、現実の経営は「儲けるためなら何でもやれ」に近くなってはいないでしょうか。
経営理念の根幹にあるもの、またあるべきものとは何でしょうか。
それは端的に言えば、「“価値”を市場や顧客に提供し続けること」です。
企業である以上、売上げや利益を無視することはできません。
しかし、「主権者」が変わったいま、「売り上げを伸ばすために…」「利益を上げるために…」という発想の枠組みにとどまっている限り、現状打開の方向性はなかなか、見えてこないように思います。
また重要なことは、この「価値」を決めるのは企業などの送り手ではなくて受け手の側、すなわち「お客様」であるということなのです。
価値は常に同業他社との相対値でもあります。
より高い価値を提供するライバルが出現すれば、たちまちその地位は脅かされることになります。
こうした環境変化に速やかに対応することも、いままで以上に必要になることでしょう。
企業の価値とは何でしょうか?
なにが最初に思い浮かぶでしょうか。
最近自分自身は「どれだけ人を幸福にしているか、世の中の役に立っているか、その総量ではないのか」と考えるようになりました。
沢山の利益を上げていても、そこに働く従業員が苦しみ、かつ精神的にダメージを受けている人が多い企業が、真に価値ある企業でしょうか。
どれだけの人々を幸福にしたかという判断軸で見るとき、その結果は全く異なってきます。
ここ数年色々な素晴らしい企業を実際に訪問し、トップの方の話を伺いそして従業員の方々からも多くのことをお聞きしました。
業績を上げ続けている企業、素晴らしい企業の共通していた特徴は
「挨拶がきちんとできる」「整理整頓が行き届いている」「雰囲気が明るい」
この三つでした。
また、従業員の方々の自主性が高い、すなわち自ら進んで仕事に臨んでいることでした。
活き活きと輝いています。
またそれらの企業のトップは常に従業員のことが一番の関心事項でした。
従業員の満足を高めることを優先順位の一番に挙げていました。
従業員満足と言うとただ単に待遇をよくしたり甘やかすように考える人もいますが、決してそうではありません。
従業員満足とは彼らが成長することであり、また人としてよりよい仕事をしてもらう、素晴らしい生き方ができるように支援することでした。
その結果モチベーションの高い従業員が素晴らしい仕事を行う、それらに対してお客様が高い満足を得られる、結果として企業自身も成長・発展することができる。
このような世界を実現している姿を見たとき、「これこそが本物の経営、全ての人が幸福になる経営」ではないかとの感慨を深めたことでした。
このような企業こそが真に価値ある企業であると思います。
引用:人と企業の真の価値を高めるヒント
大久保 寛司 著
中公文庫
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