
戦後まもなく、会社の再建期に、各地の営業所長と事業部長との合同会議が開かれているときのこと、幸之助の横に座って、社長を補佐しつつ議事を進めていた営業所長のところに、緊急の電話が入った。
母親が死去したという知らせであった。
幼少で両親を失った彼は、その後、叔母を養母としていたが、その養母が亡くなったのである。
席に戻った営業所長は幸之助に、そっとその事情を説明し、会議が終了するのを待って帰宅することを告げた。
しかし、幸之助は許さなかった。
さっそく会議を中断、彼を社長室にいざなってから言った。
「今からすぐに帰りなさい」
そして、「ちょっと手を出せ」と、当時まだ珍しかった千円札を十枚、その手に握らせた。
引用:松下幸之助 著
『エピソードで読む松下幸之助』PHP新書
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