
かつて、フリードリッヒ・ハイエク(1899年~1992年)という学者は「貨幣発行自由化論」を発表し、国家が中央銀行を経由して通貨をコントロールすることは実体経済に悪影響を及ぼすとし、通貨の国営化をやめるべきだと主張しました。
現代では考えられないことですが、当時は国家が通貨をコントロールすることは常識ではなかったことがわかります。
ハイエクは、市場原理によって競争にさらされることで健全で安定した通貨が発展すると考えていました。
経済学が好きな人にとっては、ビットコインはこのハイエクの思想を体現した仕組みのように映っているはずです。
ハイエクはオーストリア・ウィーン生まれの学者で、経済学・政治学・哲学など幅広い学問に精通した多才な人物で、ノーベル経済学賞も受賞しています。
また、ハイエクは全体主義や計画経済などのように、国家が経済や社会をうまく計画してコントロールできると考えるには人間の傲慢にすぎないと主張し、自由主義を支持していました。
また、ドイツ人経済学者シルビオ・ゲゼルは、『自然的経済秩序』という著書の中で、自然界のあらゆるものが時間の経過と共に価値が減っていくのに、通貨のみは価値が減らないどころか増えていくことを指摘し、それは欠陥だと主張しました。
それを解決するアイデアとして、価値が時間と共に減る自由通貨(スタンプ貨幣)を考え出しました。
これによって通貨が滞留してしまうことを防ぎ、経済の新陳代謝を強制的に促すことも可能になります。
これはアプローチは違えど、ピケティが提案した資産を所有すること自体に税金をかけるべきといった資産税に近い概念です。
ただビットコインが他の学術的な思想とも、ただの新技術とも違うのは、この経済システムに参加する人々が何をすれば、どういった利益が得られるか、とい報酬が明確に設計されている点です。
マイナー(仮想通貨の発掘者)や投資家(投機家)などを“利益”によって呼び込み、ブロックチェーンなどの“テクノロジー”で技術者の興味を引き、その“リバタリアン的(個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する、自由主義上の政治思想・政治哲学の立場)な思想”によって社会を巻き込んで、システム全体を強固なものにしています。
インセンティブを強調しすぎて崩壊していく金融市場や、誰得なのか不明なままの新技術、理論的な美しさを重視して最初から実現する気のない思想論文。
こういったものは世の中に出ては消えていく時代の消耗品です。
しかし、ビットコインは経済・テクノロジー・思想とそれぞれが、それぞれの役割を与えられた上で、うまく報酬の設計がなされています。
さらにオープンソースにすることで、もしビットコインがダメになってもアルトコインを始めとした別の選択肢へ参加者が移動しやすくなっています。
結果、参加ハードルを下げてリスクを分散し、仮想通貨全体で安定的な市場を形成しつつあります。
私はこれを見た時に、ビットコインの発案者は「理想主義者」ではなく、あくまで動くものを作りたい「現実主義者」だと感じました。
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』幻冬舎
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