
設計の仕事をしている光君が初めて中谷塾に来た時に、僕は、
「『悪いけど、明日の朝までにこの企画書を出してほしい』という急な依頼が来ました。徹夜でその仕事をして持っていくと、『ゴメン、ちょっと方向が変わって要らなくなった』と言われます。この時、あなたはどうしますか」
という問題を出しました。
実際、これは社会ではよくあることです。
理系の光君は「一晩仕事をした分の企画書代は請求します。それが普通でしょう」と言いました。
デジタル的には、そのとおりです。
アナログ的には、将来の利益がなくなります。
そこでギャラを受け取ったら、次の仕事は来ません。
一生のチャンスを、ここで失うことになります。
僕も広告代理店で、さんざん鍛えられました。
その時に「よくあることですよ。可能性が0.1%でもある時に、いつでも声をかけてください。一緒にやりましょう」と言うことで、相手もまたその人に頼みやすくなります。
不機嫌そうに「今度は可能性が高い時に声をかけてください」と言われたら、次に頼めなくなります。
相手に決定権があるわけではありません。
編集長ですら、決定権はありません。
「あなたは編集長でしょう。あなたがここでOKと言ったことが翌日覆(くつがえ)るのですか。こっちはもう書き始めていたのに」と言われると、その人に次から頼みにくくなるのです。
たとえ無料の仕事でも、感じよくしておいたほうがいいのです。
あなたが今、靴屋さんで働いているとします。
お客様が来て、いろいろためし履きをしました。
あたなは、奥の倉庫から、汗をかきながら10足ぐらい出してきます。
それなのに、お客様に「今度にします」と言われるのです。
あなたが「はあ」とため息をついたら、ここでチャンスがなくなります。
感じよく「またいろいろ履きに来てください」と言うことで、お客様は「次もこの人に頼もう」と思います。
これが商売です。
1つの出来事で、「このお客様は完全に最初から買うつもりはなかった」と考えないほうがいいのです。
ここでイラっとするのは、売上げが立たなかったからではありません。
「自分は見くだされた」「バカにされた」という気持ちが大きいからです。
仕事そのものよりも劣等感でエネルギーを消耗していくのです。
『メンタルが強くなる60のルーティン』
中谷彰宏 著
PHP研究所
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