荒々しい「野心」

社長の野心

創業者と比べて、二代目に欠けているものは「野心」である。

社長業に大事な要素はいくつもあるが、まず筆頭に挙げるものは、「野心の有無」である。

しかも生涯にわたって持続する野心の有無こそ、社長を長く続けていく必須の条件である。

もちろん、社長にはいろいろな必須要素がある。

視野が広いこと、先見性があること、危機に強いこと、体力やタフネスがあること、運がよいこと、情に厚いこと、頭脳が明晰であること、実行力があること、勇気があること、良い商品や得意先に出会うこと…と、業種・業態、時代、場所によっても要求されることの序列が異なる。

しかし、「野心」があることは、荒々しい心のスタートである。

だから、一番目に挙げるし、それがないと始まらない素質なのだ。

野心は、最初から人に具(そな)わっているものではない。

突然の激しい環境の変化によって、瞬時に悟るような心の変化といってよい。

私の親しい友人の息子は、生まれつき裕福であった。

親父は、創業した会社を上場させたし、本人も一流の大学を卒業していた。

生まれつきの金持ちだったから、社会的に地位の高い経済人や政治家にも、臆せず接していた。

贅沢の味が身に付いていた。

品性高く、格好も良かった。

しかし、親父の突然の死に接してから、本当の苦労を経験するようになった。

会社は、かつての親父の部下が後継するように決まったが、誰もが、数年の後に息子にバトンタッチされるものと信じていた。

ところが、人生は思いがけない方向に進むもので、バブルの崩壊と一緒に、業績が低迷するに至って、いわば「純粋だ」という人格が災いして、次の社長交代時には後継者から外されてしまった。

経営は、順風だとは限らない。

むしろ、逆境ばかりの連続だと考えたほうがいい。

そうすると、資質に、危機に強いことが大きく必要とされるし、悪い表現だが、「すすどしい(すばしこい)」「ぬけめがない」とか「めざとい」とか、心のタフネスが重要になってくる。

そういう要素は、貧乏の中にあって鍛えられることが多い。

しかし、単なる貧しいとかいうものでは得られない。

貧乏という環境にあっても、「野心」をもっていなければ得られない。

「金持ち」は地位の高い人々に臆せず接し、視野を広めるのに役立ち、「貧乏」は危機に強く、心のタフネスを育てるのに役立つ。

後継者には「贅沢の味」と「貧しさの味」の両方を経験させることだ。

『社長のいき方』PHP研究所