
お金との付き合い方は、師匠や先輩に教わったことが大きい。
飲み屋で後輩を見かけたり、挨拶されたりしたら、その飲み代をパッと払う。
店員には「内緒にしといて」と言って払って、サッと気づかれないようにして先に帰る。
そういうのは、渡哲也さんとかカッコいい先輩から学んだこと。
師匠の深見千三郎も粋だった。
師匠についていた時の話だけど、「師匠、寿司屋に連れてってください」と言ってもダメ。
「いいじゃないですか。おごってくださいよ」なんて生意気言ってた。
それでも師匠は「行かない」とテコでも動かない。
「ケチですね。寿司代ぐらいあるでしょう」と言ったら、「バカ野郎!祝儀がねえんだよ」って。
「あそこは職人が三人いるだろう。寿司代はあるけど、祝儀がなあ」
師匠は店の人にすごく気を遣う人で、必ず板前に祝儀をあげていた。
二人で寿司食っても二万はいかないけど、職人一人に一万ずつ払うから、その金がないって。
そのあたりが粋だと思ったし、勉強になった。
祝儀の渡し方というのも大事なんだ。
食べて、偉そうに「ほら、とっとけ」なんて渡すのじゃなくて、店を出てから弟子のおいらに「渡してこい」とやる。
「店にいる間に渡したら、『ありがとうございます』なんて、俺に気を遣って挨拶に来るだろう、バカ野郎。だから店を出てから渡すんだ」と、そういうしきたりみたいなものにはきっちりしていたし、うるさかった。
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バカ論
ビートたけし 著
新潮新書
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