
何も差し出す準備をしないで、「独立して儲けよう」といっても儲からないと思う。
「日本を変えよう」といっても変えられないだろう。
「世界に進出しよう」といっても万人に一人の確率だ。
ブラック・ジャックは、「あなたは天才。あなたの腕でわたしの息子を見事に治してほしい」といわれることにうんざりしていた。
しかし、相手が自分の持っている何かを差し出してくれば手術をした。
人は、神や神のような男(つまり才能がある人間)に何かを頼むときには、お金を渡すか、相応の価値のあるものを差し出すか、あるいはその男の好きなものを用意するのが当たり前なのだ。
古今東西、当たり前の話だ。
大宗教家も、神格化された人物も、報酬で動く。
それを「汚い人間だ」「汚い世の中だ」と逆恨みをする物語が『霧の旗』だ。松本清張の小説である。
優秀な弁護士のところに「殺人罪で逮捕された兄を助けてほしい」とヒロインの女が依頼に来たが、女はお金を持っていない。
だから弁護士は断る。
その後、兄は拘置所で病死し、女は弁護士に復讐することを誓い、その復讐が大成功する。
しかし、間違えているのは無償で仕事をしろと迫ったその女のほうで、松本清張は女に甘いのか、あるいは「この話を君たちはどう思うか?」と読者に問いかけたのだろう。
ヒロインの名前は、たしか「桐子」だったと思う。読んでみたまえ。
あなたが男だとしても決して桐子になってはいけない。
無償で「僕を助けてほしい」なんて頭がおかしいのだ。
最後に繰り返しいっておくが、お金でも時間でも才能でも、自分が持っている「何か」を差し出さずに欲しいものを得られることはない。そう心しておくことだ。
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この「こだわり」が、男を磨く
里中 李生 著
三笠書房
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