
昔々、魏の国の王様が斉の国の王様と、あるところで出会いました。
さっそく魏の国の王様は、斉の国の王様に自慢話を始めました。
私の国には夜も照らすような大きな素晴らしい珠が十個もあると。
斉の国の王様は答えました。
「私の国には、そんな素晴らしい宝物はありません。
私の国にあるのは、農業なら農業、こういうものをつくるといったら、それをつくる、物を運ぶ仕事なら物を運ぶ・・・ 一つひとつの仕事をだれよりも一生懸命やって一隅を照らすような人たちです。
そうした人たちこそが、わが国の宝です」
それを聞いた魏の国の王様は、斉の国の王様の前に手をつき、ひれ伏しました。
―――この中国のお話をもとにしたのでしょうか。
天台宗の開祖、最澄は、その本の中で、次のように記しています。
「径寸十枚これ国宝に非ず、一隅を照らす、これ則ち国宝なり」
すなわち、「お金や財宝は国の宝ではなく、家庭や職場など、自分自身が置かれたその場所で、精いっぱい努力し、明るく光り輝くことのできる人こそ、何物にも代えがたい貴い国の宝である」と。
「一隅を照らす」という言葉はここから生まれたとされます。
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品格を磨く
高野 登 著
ディスカヴァー
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