
「どれほど愛し合っていても、相手を100パーセント信じては駄目。
98パーセントにしておきなさい。
残りの2パーセントは、相手を許すために取っておくの」
「初めから疑ってかかるのですか」と不思議そうな顔をする学生たちに、そうではなくて、もしも100パーセント信じてしまったら、裏切られた時、相手が許せなくなるから、と説明すると納得してくれます。
信じるということは大切なこと、美しいことですけれども、悲しいことに人間の世界に“完全な”信頼はあり得ません。
信じることを教えるのも教育なら、人を疑うことの必要性、単純に物事を信じてしまってはいけないことを教えるのも教育の一つの役割なんです。
それは、神でない人間は、他人も自分も皆、弱さを持ち、間違うことがあるのだという事実に目を開かせ、許しの大切さを教えることでもあります。
赤ちゃんが一番最初に習わないといけない発達課題は「信頼」だといわれています。
空腹で泣けばミルクが与えられ、おむつが汚れれば取り替えてもらえ、落ちないようにしっかりと抱かれることによって、赤ちゃんは自分が愛されていることを知り、まわりの世界への好意と信頼感を身につけてゆくのです。
この時期に十分な信頼感を得られないで発育した子どもは、不信感の強い大人になると考えられています。
ですから、折あるごとに子どもたちをしっかり抱きしめて、基本的信頼を持たせるようにしましょう。
そうすれば、大きくなって厳しい現実に直面し、人間の弱さが否が応でも触れざるを得なくなった時も、絶望することなく、98パーセントの信頼と、2パーセントの許しの余地を持って、たくましく、優しく生きてゆくことができるでしょうから。
『目にみえないけれど大切なもの』
PHP文庫
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