
どんなに優れた政策を掲げた政治家でも、選挙に当選しなければ腕の振るいようがない。
そして、選挙に強い政治家とは、必ずしも、優れた政策を実現する能力に長(た)けていたり、時勢を正しく見極めることができる政治家ではない。
選挙に強い政治家とは、ドジャ降りの日に傘もささずにビール箱の上に立ってズブ濡れで街頭演説をつづける、真夏に長靴をはいて田んぼに入って農家のお年寄りの作業を手伝う、あるいは、村祭りの盆踊りの輪でわざとみんなと逆回りに踊り、すれ違う選挙民にニッコリ微笑みかけて顔を覚えてもらう…そういった、人に媚びるための泥臭いおべっかのノウハウを持った政治家である。
ビジネスも同じだ。
どんなに優れたクリエイティブ力やメディア・プランニング力を持っていても、まず得意先に気に入られ、使ってもらわなければ、腕の振るいようがない。
企業のトップに立つような有能な人間は、その能力が高ければ高いほど、即効性のあるリアルな気くばりを求めている。
彼らは、自分が購入を決断する高額商品は、それがクルマであれ、マンションであれ、生命保険であれ、会社の広告キャンペーンであれ、すべて、自分に対してどれだけ有効な気くばりがなされたのかで購入先を選ぶ傾向にある。
結局のところ、人の心を動かすのは、人の気くばりなのだ。
例えば…
《お詫びやお礼をメールだけで済まさない》
文字だけで伝わる情報量は、会話で伝わる情報量のわずか30%に過ぎない。
どんな美辞麗句を連ねても、本気の謝意は正確には伝わらない。
大事なのは表情と声のトーン。
お詫びやお礼など、感情を伴うコミュニケーションにはメールは向かないものと心得られよ。
従がって、上司や得意先との打ち合わせへの遅刻は、メールではなく、電話で詫びるべきだ。
また、前の晩にごちそうになった上司へのお礼もメールで済ませない方がいい。
「佐藤錦」のパックを持って相手のデスクまで行き(こういうときのお礼は昔からサクランボの佐藤錦と決まっている)、直接、お礼を言うべきである。
《常に面白い話題を持っている》
ある日、広告マンのM君は、先輩が運転する車で番組収録の立ち会いに行った帰り、レインボーブリッジ上で渋滞にハマり、退屈した先輩から「最近、何か面白い話はないか?」と訊かれた。
M君が「特にありません」と答えると、先輩は血相を変え、「今すぐこのクルマを降りろ」と言って、橋の上でM君を降ろしてしまった。
M君は後から来たトラックに乗せてもらい事なきを得たが、それ以後、得意先から飲みの席で「何か面白い話はない?」と訊かれると、この話で大受けをとることができた。
そこで初めてM君は、先輩が自分に「面白い話」を与えてくれたのだと気づいたそうである。
『電通マン36人に教わった36通りの「鬼」気くばり』
ホイチョイ・プロダクションズ 著
講談社+α文庫
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