あいつはいい男だ

いい男

むかし、中国の衛(えい)の国に、哀駘它(あいたいだ)という、まったく風采のあがらない男がいました。

ところが、彼と接した人たちは、みんな彼を慕って離れようとしません。

誰もが、「あいつはいい男だ」「あんな気持ちのよい男はいない」などと絶賛します。

たくさんの男たちが、彼と友達になりたがったのです。

娘たちがこの哀駘它を見ると、

「ほかの男の妻になるより、お妾(めかけ)さんでもいいから、彼と一緒になりたい」と、

数十人の女性たちが両親に泣いてせがむという始末。

もう、モテモテで大変!

彼は、決して豪壮な家に住んでいるわけでなく、とりたてて財産があるわけでもありません。

権力も地位もなく、ごくごく平凡な男に過ぎません。

彼の魅力は、いったい何だったのか?

「和して、唱えず」。

つまり、彼は、何を言われてもハイハイと素直に答える男だったのです。

なぜ、彼がそのような態度を取り続けることができたのか。

彼は、すべての人に好意が持てたからです。

(「老子・荘子」野村 茂夫 著 / 角川ソフィア文庫)