
誰かから何かをしてもらったときに、「なんとしてでも、このお返しをしなければならない」という心理が働く。
お返しをすることで、相手への貸しをなくすことができるからだ。
「人に親切にすれば自分も親切にしてもらえる(情けは人の為ならず)」ということわざは、どの文化圏にもあてはまるようだ。
たとえば、相手が笑顔を見せてくれれば自分も笑顔を見せようとするし、相手がほめてくれれば自分も相手をほめようとする。
別にお返しをする必要がないときでも、人々はできるだけ早く借りを返そうとする傾向がある。
場合によっては、借りを返そうという思いが強くて、してもらったことよりはるかに大きなお返しをすることすらある。
私は家族とともに新しい地域に引っ越したとき、妻と二人でささやかなクリスマスプレゼントを近所のすべての家に配って歩いた。
どれも5ドル以下のプレゼントだ。
近所の人たちとも顔見知りになりたかっただけだが、私たちが全員にプレゼントを手渡して30分もしないうちに、玄関のドアのベルが鳴った。
ドアを開けると、一人の婦人が大きな箱を持って立っていた。
箱の中には、50ドルはするような大きなチョコレートが入っている。
彼女は「この町へようこそ、よい休日をお過ごしください」と言って立ち去った。
彼女は突然できた借りに耐えられなくなり、そのお返しとして、受け取った贈り物の10倍以上の値打ちのある贈り物をしたのだ。
借りを返さなければならないというプレッシャーはたいへん強く、また、借りを返さないような人は軽蔑される。
贈り物を受け取るだけでお返しをしない人は利己的で強欲で人情味がないと見られやすい。
人々が借りを返さずにいられないのは、そういう心理的・社会的なプレッシャーによるものだ。
たとえば、相手の心の中に貸しをつくるために、あなたが与えることができるものを考えてみよう。
たとえば、次のようなリストができる。
サービス、情報、譲歩、秘密、ほめ言葉、笑顔、贈り物、招待状、時間
ただし、このテクニックが相手の心の中にお返しの必要性をつくり出すのは、相手があなたの行為を誠実で、妙な下心がないと思う場合に限られる。
もしあなたの行為を罠だとか賄賂だとか思えば、相手はその手に乗るまいとするだろう。
相手を利用して自分だけが利益を得る目的で貸しをつくろうとすると、あなたは確実に説得力を失う。
人々はあなたの下心を見抜き、あなたが差し出す贈り物をいっさい拒否し、場合によってはあなたといっしょにいることさえ嫌がるだろう。
相手はあなたの贈り物を罠だと思い、あなたが「早く貸しを返せ」と言ってくることを警戒するにちがいない。
心をつかむ達人になるためには、あなたはまず自分の動機が不純でないかどうかを検証すべきだ。
『心をつかむ技術』ディスカヴァー
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