
目上の人に礼をいわれると、わたしたちはくすぐったいような、晴れがましいような、とてもいい気分になります。
たとえば上司に頼まれていた資料を届けて、はっきりとひとこと、「ありがとう」といわれたようなときです。
「ありがとう」といわれると、その上司の誠実さが伝わってきます。
自分の立場にふんぞり返らないで、部下にきちんと応対してくれるのがわかるからです。
それは、こちらをちゃんと認めてくれたということですね。
「仕事だから当然だ」ではなく、部下と一対一で向き合っている姿勢が伝わってくるのです。
わたしは礼儀の基本は一対一の関係にあると思っています。
相手が上司や目上の人間なら、だれでも礼儀を守ることを心がけます。
失礼のないようにふるまって当然です。
けれどもしばしば、部下や目下の人間に対しては、礼儀を忘れます。
自分の優位性を押しつけてしまいます。
そしてどちらの場合も、忘れているのは一対一の関係ですね。
社会や組織の上下関係をそのまま当てはめてしまって、相手も自分も一人の人間でしかないという気持ちをどこかに忘れてしまうのです。
反対に、高圧的な相手と向かい合ったときには、「この人は一対一の関係が苦手なのだ」と思ってください。
肩書や経験や実績といった後ろ盾をなくしてしまうと、不安になる人なのだと考えてください。
それによって、高圧的になる態度もわかってきます。
「なるほど、この人も大変なんだなあ」と思えるようになります。
それが性格的なものなのか、あるいは自信のなさの裏返しなのかわかりませんが、他人と一対一で向き合うのが苦手な人間なのは事実です。
だから、基本的な礼儀を忘れてしまうのです。
『争わない「生き方」自分は自分人は人』新講社
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