
基本的には「ほめる」に賛成なのですが、一方、ほめるというのは本当に難しいことだというのも事実です。
認知的不協和があるからです。
よく絵を描く子ともに「上手に描けたね」「えらいね」などと声をかけるほめ方は、あまり感心しません。
絵を描く子は、描きたいから描いているのです。これを「内発的動機」と呼びます。
ご褒美や名声などの外的理由ではなく、自分の内部から「やる気」が湧き出している状態です。
内発的動機には根拠がありません。好きに理由などないのです。
それなのにまわりの大人は、ついついほめてしまいます。
すると「絵を描くのが好き」ではなく「ほめられたいから描いている」と、自分の行動の意味が変化してしまいます。
単にほめられたいだけなら、ほかのことでもいいわけです。ですから、「絵を描く」という手段を選ばなくなります。これはもったいないことです。
せっかく興味を持っていたのに。
ほめたいからほめる、しかりたいからしかる――。これは単なる親のエゴです。ヒトは高度な認知を備えているからこそ、安易にほめることは有効ではありません。
とはいえ、こうした理想教育論ばかりを掲げたところで、読者の多くは「そんな繊細な育児方法は私にはムリ」と思われるかもしれません。
実際、私も理想からは程遠いのが現実です。そんなときはせめて「笑顔で子どもに接する」ように心がけるのです。
例えば、片づけなくて困ったときは、イライラして「なぜ片づけないの!」とか「片づけないならもう遊ばせない」などと怒鳴っては逆効果です。
ぐっと気持ちを抑えて、笑顔で楽しそうに、まず自分から片づけはじめてみましょう。
それだけで、きっと子どもは寄ってきます。「楽しそうに何してるんだろう」と。そうしたら、しめたものです。「どう?一緒にやる?」。そう声をかけるだけでよいのです。
遊びでも家事でも、親が楽しそうにやっているものに、子どもは自然と興味を持ち、マネをしたがるものです。
こうした方法で、一度もしからずに、自然と片づけられるようになる、つまり内面化が成立することが証明されています。
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パパは脳研究者
池谷裕二 著
クレヨンハウス
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