
「死」があるのではなく、死者がいるだけであるように、病気もまた存在しません。
存在するのは病を背負う人間だけです。
「病者」というとき、私たちは病気に目を奪われて、その人の苦しみや悲しみ、その人の本当の姿を見失ってはいないでしょうか。
たとえば、がんを患う人がいる。
すると大変な病気になったという。
でも、大変なのは病ではありません。
その人の人生そのもの、毎日の一瞬一瞬が大変なんです。
もっと言えば、彼らはすでに、がんが治ればすべて解決するのではない、という人生の深みにおいて生きている。
かつてとは異なる次元で生きている、そうした人に、私は一人ならず出会ってきました。
私にとっての「英雄」とは、このような人生の問題をすり替えず、それと向き合う人々です。
困難を引き受け、今に深く根を下ろし、果敢な、と表現するほかない生を生きる人々によって、私は大きく人生を変えられてきました。
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「死者との対話」
若松英輔 著
トランスビューより
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