他人を幸福にするのは、香水をふりかけるようなものだ。

香水 いいため話
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先日、久しぶりに、バスに乗っていたときのお話です。

夏の夜の祭りの後、バスは乗客で満員でした。

あるバス停に止まったとき、数人の乗客から遅れて、80歳くらいのおばあちゃんが2人、付き添いの男性に伴われて乗車するところでした。

その姿をチラリと見るや、私の隣に座っていたアイルランド人と近くに座っていたスペイン人の友人が席を譲るために即座に立ち上がりました。

むむ、ここで立ち上がらなくては日本の恥だ、と思ったわけではありませんが、私もつられて席を立つ形になりました。

が、われわれ3人より一瞬早く行動した人たちがいました。

入口に一番近かった若い日本人カップルです。

若い男性が横目でチラリとおばあちゃんの姿を見るや、横に腰掛けていた女性に何か一言ささやきました。

その瞬きするような間に、2人は誰よりも早く席を立っていたのです。

そして、そのまま無言で出口の方に向かいました。

腰を曲げ、おぼつかない足取りで乗り込んできたおばあちゃんたちは、それまで2人が座っていた場所に空席を見つけ、難なく腰をおろすことができました。

若いカップルは、バスを降りようとしたのではありません。

おばあちゃんたちに席を譲るために、席を空け、出口の方に居場所を変えたのです。

2人はおばあちゃんたちが席に腰を下ろしているのを横目で確認すると、ほんの少し笑みを見せ、その後はつり革を握り、ずっと立ったままでした。

おばあちゃんたちも付き添いの男性も、その若い2人が席を譲ってくれたことに気づいていませんでした。

下車するときも、このカップルに一言も謝辞を述べることはありませんでしたから。

この2人の行動は、誰からも感謝されず、誰からもほめられませんでした。

しかし、それでよかったのではないかと思います。

「他人を幸福にするのは、香水をふりかけるようなものだ。

ふりかけるとき、自分にも数滴はかかる」(ユダヤの格言)

2人が降りた後のバスに、まだ少し上質の香りが残っているように思えました。

引用:中井俊已 著
『「人生がうまくいく」48の物語』