
今も昔も、商人は不特定多数の相手と取引するため、その「道」とは、「何が正しいのか」や「人の心とは何か」を十分に考えることであると説いている。
その結果導き出された商人道は、信頼の社会を築き上げるためのルールであるといえる。
そのルールを明確に示したのが石田梅岩である。梅岩は「石門心学」を庶民に広め、利欲・色欲・名誉欲を抑えることを説いた。その著書『都鄙問答(とひもんどう)』に次のように書かれている。
「商人はもともと、余っているものを不足しているものに替えるところに成り立つ仕事である。
そして、商人は細かく勘定をすることによって、生活をしているのであるから、一銭といえども軽んじてはならない。
その一銭を積み重ねて富を成すのは、商人の道である。
しかし、その富のもとは天下の人々である。
人々の心も我々と同じく、一銭を惜しむ心を持っている。
だからしっかりとした良い商品を売れば、買う人もお金を使うことを惜しいと思わなくなる。
そうすれば、天下にお金や物が流通して、万民の心が安まる。
それは天地が常に変化して万物を養っていることと同じである。
それによって大金持ちになったとしても、それは決して欲心から出たものではない。
要するに、商人が欲心をなくして一銭を大事にすれば、天下の倹約にもかない、天命にも合うことだから、福を得るのは当然のことだ。
商人が福を得ることが万民の心を安んずることにつながるならば、商人が仕事に励むことは、常に天下太平を祈ることと同じである。
その上に、法を守り、身を慎むことが大切だ。
ただ、商人といえども、聖人の道を知らなくては、同じお金でも不義のお金を儲けて、子孫に災いをもたらす」
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和の人間学
吉田善一 著
冨山房インターナショナル
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