
町にある市場でロバを売るため、親子とロバが田舎道を歩いていた。
すると、道ばたで井戸水を汲んでいた女の子たちがそれを見て言った。
「なんて馬鹿な人たちでしょう。どっちか一人がロバに乗ればいいのにさあ。二人ともほこりをかぶってとぼとぼ歩いているのに、ロバはあんなに気楽に歩いているわ」。
親父さんはその通りだと思い、息子をロバの背中に乗せた。
しばらく行くと、老人たちがたき火をしているところに来た。
老人の一人がこう言った。
「今時の若い者は年寄りを大切にしない。ごらんよ、年をとった親父さんが疲れた様子で歩いているのに、あの子はロバに乗って平気な様子じゃないか」。
親父さんはこれを聞いて「それもそうだな」と思った。
そして、息子を下ろして、自分がロバに乗った。
しばらく行くと、子どもを抱いた三人の女たちに会った。
一人の女がこう言った。
「まったく恥ずかしいことだよ。子どもがあんなに疲れた様子なのに、どうして歩かせておけるんだよ。自分は王様みたいにロバに乗ってさ」。
そこで親父さんは、息子を鞍の上に引き上げて自分の前に乗せた。
しばらく行くと、数人の若者たちに出くわした。
一人の若者がこう言った。
「君たちはどうかしているんじゃないか。その小さなロバに二人が乗るなんていうのは無慈悲だよ。動物虐待だと言われても仕方がない」。
その通りだと思った二人は、ロバから下りた。
そして、親父さんは言った。
「こうなったら、二人でロバを担いでいくしかない」
二人はロバの後足と前足をそれぞれ綱で縛って、道ばたにあった丈夫そうな棒をその間に通した。
子どもが棒の片方を、親父さんが棒のもう片方を持って、えんやえんやと担いで歩いていった。
町の人たちはこの様子を見て、手をたたいて笑った。
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座右の寓話
戸田智弘 著
ディスカヴァー
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