
森信三先生の教えを受け継いだ教育者は多いのですが、なかでも私が最も敬愛する方が東井義雄先生です。
『培其根(ばいきこん)』という本の中に、こんな言葉があります。
「インテリは首から下を使おうとしない。勤労者は首から上を使おうとしない。頭と胴体の分裂に、日本の悲劇、不幸がある」
人間には、考えることと行動することが必要です。
しかし、それらがバラバラでは意味がありません。
考えながら行動する。行動しながら考える。この両方が合致したときに、すばらしい成果に結びつくものです。
もう一人、立派な言葉を残した先人を紹介します。
江戸時代の禅僧であり、書家としても活躍した白隠禅師です。
たくさんの書が残されていますが、私がいちばん好きなのは次の言葉です。
「動中の工夫は静中に勝ること百千億倍」
禅僧といえば、ふつうは黙って座ることが大事だとおっしゃりそうなものですが、白隠さんは違いました。
「動きながら考えることは、黙って座っていることよりも、百千億倍の価値がある」とおっしゃるのです。
(中略)
人は、よいとわかってはいてもできないことがあります。
そのことをユダヤの格言は、こう言い表しています。
「0から一の距離は 一から千までの距離より遠い」
宗教的迫害にさらされてきたユダヤ人は、どこに行っても厳しい制約が課せられ、土地を持つことも許されず、多くは金融や商業で生計を立てていました。
おそらく失敗を繰り返して知恵を身につけたのでしょう。
常識的には0から一までの距離は、一から千までよりも近いはずです。
ところが、現実はそうではないことを、ユダヤ人は知っていました。
人は「すべきだ」「したい」と思っていても、行動できないことがよくあります。
ところが、勇気を持って一歩踏み出してみれば、それが二になり、三になり、やがて十、百、そして千へと到達していきます。
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すぐに結果を求めない生き方
鍵山秀三郎 著
PHP研究所
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