
先日の朝、通りを歩いていると、一人の若者が連れに向かって激しい口調でこんなことを言っているのが聞こえた。
「全く世の中の奴なんて、どいつもこいつもみんな自分のことしか考えていないよ。はっきり言わせてもらうけど、それなら俺だって―――」
それ以上立ちどまって聞いてもいられなかったので、若者がこれから実際どんなひどいことをしようというのか聞きもらしてしまった。
しかし、これだけ聞けば、彼の言い分に道理がないことは充分わかる。
充実した善き人生を送りたいと願っているがうまくいかず、もっともつまらない人生を送ろうとしているのだということもわかる。
この若者はある学派の社会哲学をそっくり代弁しているともいえるが、人間性と人類の友情に対しては信頼が欠けているといえる。
自分は組織化された共同社会のあらゆる権利と特典を享受していながら、それでいて次のことがわかっていない。
つまり、人はすべて自己の利益だけを考えていればいいという彼自身の理屈が広く実践されていたら、そもそも組織化された社会など存在しておらず、われわれはいまだに原始的な環境の中で、こん棒で野蛮な殴り合いをくり広げていることになったであろうということが全くわかっていないのだ。
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自分を変える!
アーノルド・ベネット 著
渡部昇一 訳・解説
三笠書房
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