
何かに「ついて」語るということと、何か「を」知るということは、全く次元の違うことです。
何かに「ついて」語るとき、そこにはかならずしも経験は必要ありません。
多少、調べればすむわけです。
何か「を」、身をもって知るというのは、常に「言い難き」経験です。
何かに「ついて」知るとは、観念の働きですが、何か「を」知るとは、相手に全身でふれることです。
海に行かなくても、海について知ることはできます。
しかし、海「を」知ろうとすれば、私たちはその美しい風景と共に、脅威も経験しなくてはなりません。
何かに「ついて」語られたことを受け入れ従うとは、言葉もできない、現地も知らない、ためこんだ知識だけが頼りの旅行ガイドといっしょに異国を旅するようなものです。
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死者との対話
若松英輔 著
トランスビューより
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