
《だまされてよくなり、悪くなっては駄目(だめ)。
いじめられてよくなり、いじけてしまっては駄目。
ふまれておきあがり、倒れてしまっては駄目。》(坂村真民)
雪がとけて畑の黒い土に草々の緑が目立つころになると、遠き日、師匠と共に麦踏をしたことや「踏まれておきあがり」の坂村真民先生の詩を思い出す。
麦は冬の寒さに堪えて春を迎える。
雪や霜で浮き上がった根を、水ぬるむ季節を待って、やわらかい藁草履(わらぞうり)をはき、やさしく、しかししっかりと踏んでやる。
踏まれることで麦は大地に力強く根を張ることができる。
過保護では駄目になるばかり。
踏まれても倒れずに起きあがる力は、踏まれることで育つのである。
もう一つ大切なことは、踏むべき時があるということ。
地にはりついている幼い時に、しかも愛情をもって踏まねばならない。
大きく育ってから、しかも乱暴に踏んだら、折れるばかりで立ちあがることはできないのである。
『あなたに贈る人生の道しるべ 続・ことばの花束』春秋社
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