
毎朝、本田さんはチーム練習が始まる二時間も前にクラブハウスにやって来た。
日本から専属トレーナーを同行させ、個人トレーニングを入念に行なっていた。
本田さんが所属するCSKAモスクワは、世界各国の代表選手がそろうロシアプレミアリーグ随一の強豪だが、そこまで自らの身体のケアに注力している選手はだれ一人としていなかった。
チーム練習が始まると、その異様なまでのストイックさはさらに際立った。
チームメイトの輪に入ろうとはせず、ランニングでは常に先頭を走り続ける。
じゃれあうチームメイトを周回遅れにすることもしばしばだった。
海外では「結果は試合で残せばいい」という考えの選手も少なくない。
だが、本田さんだけは練習から常に全力だった。
シュートを外して笑いあうチームメイトを尻目に、大声で自らを叱咤し、ミニゲームで勝利しては派手なガッツポーズを繰り出した。
そして、練習が終わると無言でクラブハウスへと消えていった。
聞けば、モスクワの観光名所であるクレムリンにも行ったことがないほど、サッカー漬けの毎日だという。
本田さんはかつての小学校の卒業文集に「世界一のサッカー選手になる」という夢を記した。
その夢を、彼は今なお信じ、追い続けていた。
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「運命を変えた33の言葉」
NHK「プロフェッショナル」制作班 著
NHK出版新書より
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