
人はなぜ道徳を守るのか。
良心に従うのか、人目を気にするのか。
自分のやっていることをよく考えてみればわかるけれど、どちらか片方といい切ることはできないんじゃないか。
良心の疼き(うずき)を感じながら、人目も気にしているっていうのが、普通だろう。
誰も見ていない街角でゴミを捨てないのも、どこかで人目を気にしているんだと思う。
人目を気にするわけではなくて、街が汚れるのが嫌なんだという人も、もちろんいるだろうけれど。
日本人には宗教がないから、道徳心が足りないなんていう人もいる。
たしかに、神様を信じている人の方が、道徳を守る率は高いだろう。
誰も見ていなくても、神様は見ているわけだから。
昔はよく、お天道様が見てるよ、といったものだ。
そういわれると、人のいない場所でも、悪いことをしてはいけないような気がした。
みんなが立ち小便する場所に、鳥居のマークを描いたら、立ち小便が減ったというのも同じ話だ。
それはある種の“人目”だけど、それをきにすることと、自分の良心の声に従うことは、実質的にはほとんど同じだ。
親にやってはいけないといわれたことをやってしまうときに疼くのも、心の同じ部分だろう。
引用:新しい道徳
北野武 著
幻冬舎
![]() |