
ナポレオン自身が、軍事的な技術革新を行ったわけではない。
その代わりに、彼の直観は、彼以前の多くの偉大な将軍たちの偉業を反復した。
彼が最初の戦いに勝利する以前に、将軍たちの戦いの方法を手中で再現できるくらい完璧なまでに分析して、矢筒の中の矢のように、瞬時にして戦術として描き出した。
特にナポレオンのイタリアでの戦いの中では、彼は五〇年も前の七年戦争におけるプロシアのフリードリッヒ大王の手法を借用している。
「戦争の原則は、偉大な名将たちの偉業の歴史が、私たちに伝えてくることをうまく導き出すことにある」
「戦術は幾何学のように、あるいは工学のさまざまな進歩や砲術のように全集の中で学ぶことができるが、戦争の大原則に関する知識は、軍事史や多くの偉大なる名将たちの戦いを勉強することや実際の経験を通じてのみ、得ることができる」
「私は自分で支配したのではなく、常に状況に支配されていた。どのような状況も、法則を持っている」
「偉大な人間ほど、自分の意志をより小さく持たなければならない。事象と状況に従うことが重要である」
ナポレオンはいかに自分の意思を状況に押し付けないようにしたかを強調している。
むしろ彼は、状況に身を委ねている。
これは完全に彼の性格や業績とは、対極にあるように見える。
それでも最終的には、彼はヨーロッパ全土を征服した。
それが彼の意志の貫徹ではなかったのか。そうではない。彼にはそのような計画はなかった。
代わりに、いつでも過去から学んだ戦術を組み合わせて、目の前の瞬間に適応できる方法があると思えば、一撃を加えた。
直観は、無理に引き出すことはできない。
それが降りてくるか、こないかである。
勝てると思える戦闘に見えないならば、そう思えるまで移動し続けることになる。
引用:「ナポレオンの直観」
ウィリアム・ダガン 著
星野裕志 訳
慶応義塾大学出版
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