萩本欽一「好きなことが見つからない」

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萩本欽一 いいため話
画像:https://woman.infoseek.co.jp

最近、「好きなことを仕事にしたい」とか、「好きなことが見つからない」という声をよく聞きます。

僕に言わせれば、好きなことは仕事にしないほうがいい。

先ほど、自分のやりたい仕事に就けなくても、いつかはたどり着けると言いましたが、本当は、たどり着けなくてもいいんじゃないかな。

僕は、好きで始めた仕事は90パーセントうまくいかないと思っています。

テレビ局を見ていると、まあよく人が辞めていきます。

テレビ局は今も人気の高い就職先らしく、みんな理想を追い求めて入ってくるから挫折しやすいのです。

子どものころから秀才で怒られたことのない人が、テレビ局に入社してADになった途端、「バカヤロー、何やってんだ!」と罵倒され、すぐ退社してしまう。

怒られたり非難されたりすることに免疫がないので、自分の全人格を否定されたように感じてしまうのかもしれません。

一方、特別好きでもない仕事に就いた人は、失敗して怒られても「もともと好きじゃないし、初めからできるわけないじゃん」と思える。

開き直りは、生き抜くためにすごく必要。

失敗も叱責も気にせず一つのことを続けていると、だんだんその仕事が好きになり、好きになると一気にうまくできるようになる。

なにごともそういう仕組みになっているみたいです。

物づくりの分野で名人と呼ばれる人に何人かお会いしましたが、僕が知る限り、好きでもない仕事に就いて名人になった人のほうが多い。

たとえばある陶芸家の名人で、商社マンに憧れ、実際に商社に勤めていた時期もある人がいました。

「たまたま故郷に帰ってきたとき、『この仕事は俺で終わりでいい。気にすることはないぞ』と背中越しに親父が言ったもんで、勢いで『継ぐよ!』と言ってしまって」と言っていました。

僕にしても、もともとコメディアンに憧れていたわけでもなく、なりたいとも思っていませんでした。

もとよりあがり症で、向いているとも思えませんでしたから。

だから師匠や先輩からから「才能ないね」と言われたときも「ええ、どうせ才能なんかないですよ」と心の中で呟(つぶや)きながら、ただ毎日練習していた。

でも、あるとき劇場のお掃除してくれていたおばちゃんから、「あんた、熱心だね。うまくなってきたよ」と言われて、「この仕事を続けていてよかった」と心底思いました。

この話を大学でもしていたら、4年生の一人が「そうか!」って、手を叩いてくれました。

好きな仕事は倍率が高く、なかなか就職が決まらずへこんでいたらしい。

「欽ちゃんのおかげで希望の就職先の幅が広がりました。ありがとう!」

そう言ってくれました。

大人の視点と大学生の視点はだいぶ違うから、身近に一人で考え込んでいるような若者がいたら、大人たちはいろいろな言葉で心を動かしてあげるといいと思います。

『ダメなときほど「言葉」を磨こう』集英社新書