【やなせたかし】身近で出来る人の喜ばせ方

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画像:http://www.asahicom.jp

人並み外れて不器用である。

こんな仕事をしているから器用だと誤解されがちだが、とんでもない。

何ひとつ満足にできない。

折り紙の鶴が折れない。

靴紐(ひも)が満足に結べない。

本当にお恥ずかしい。

僕以外は家系の中に不器用な人間はいないんですけどね。

絵も非常に不器用な絵で、友人仲間と比較して一番下手である。

線のひきまちがい。

失敗も日常茶飯事で、こんなに長い間仕事しているのに初歩的ミスが多くていやになる。

名人芸なんていうのは全く無関係な世界。

その僕が最近トイレットペーパーの三角折をはじめた。

トイレットペーパーを取りやすいように三角にたたむという簡単な作業。

誰でもできるが、ぼくがたたむときれいな二等辺三角形にならない。

しかしトイレを使用する度に練習した。

あんなもの練習するほどのものではない。

大多数の人はそう思いますよね。

ぼくにとっては、そうではなかった。

正確な二等辺三角形で先端がピシッととんがっている端正な形にはなかなかならなかった。

でも最近時々傑作ができる。

うーん、やった、美しい!

と思ってトイレの中でひとりで感動している。

馬鹿みたいですね(馬鹿ですけど)。

勿論(もちろん)公衆トイレ、ホテルのトイレ等々でも使用後にトイレットペーパーの三角折をする。

便座も拭(ふ)く。

後から使用する人が気持ちがいいだろうと思うとうれしい。

ところで高知新聞を読んでいると山の中の神社に放火したり、町の電飾を破壊したりという記事があって暗然とする。

ぼくは高知県生まれで、土佐人であることにプライドを持っている。

しかしこんな無頼な連中がいるとは信じられない。

恥ずかしくてたまらない。

古い奴(やつ)だとお思いでしょうが、人は人のためにつくし、人をよろこばせるのが最大のよろこび。

たとえばほんのトイレットペーパーの三角折でさえも…。

引用:やなせたかし 著
『人生、90歳からおもしろい!』新潮文庫