
《人生の中で転機と言うのは、偶然の出会い頭というか、横丁から飛び出してくるのと似てて、思いもよらぬ方角からやってくるもんなんですよね》
僕が、転職情報誌「週刊ビーイング」の編集部に異動して、すぐに担当したのが、巻頭のインタビューだった。
各界の著名人に、その人の転機を聞くのである。
これは、最初にインタビューした俳優の原田芳雄さんの話だ。
工業高校に通っていたのに、たまたま友人に誘われて劇団に顔を出したのがきっかけで、役者の道へ。
俳優座に入ったのも、友達の身代わり受験という偶然。
演劇から映画の世界へ飛び込んだのも、やはり自分以外の力による偶然が重なった結果だった。
「ひとつの路地を曲がれば、どんな偶然が待ち受けているかわからないけど、いい偶然はどうしても自分の味方につけたいと思うんですよ」
40歳ではじめて転職して、その後の人生は、偶然による転機の連続だった。
たまたま後輩に出した年賀状が縁で、失業中の僕は、新しい仕事に出合えた。
たまたま掛かってきた1本の電話に出られたおかげで、キネマ旬報社の役員になることもできた。
たまたま飲み会の席で隣に座った人と意気投合し、研修の講師の仕事を本格的に始めた。
今なら、原田さんの言葉が、自分自身の実感とともに、スーッと体の中に入ってくる。
スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が発表したキャリア形成論に、「計画された偶発性理論」という考え方がある。
「個人のキャリアの8割は、予想しない偶発的なことによって決定される。偶然を計画的に設計し、キャリアをよいものにしよう」と提唱しているのだ。
そのために僕は、急な誘いは断らないようにしているし、街で知人を見かけたら、自分から駆け寄り、挨拶をしている。
パーティでは、必ず誰かと名刺交換しているし、行きと帰りの道を変えてみたりもする。
そんな小さなことから、人生は思わぬ方向に転がっていくからだ。
『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』WAVE出版
![]() |