
おふくろの教えの中で、とにかく衝撃的であり、「なるほど!」と深く考えさせられ、その後の私の指針になった言葉があります。
「あんたが好かれる人間になったら、周りの人は寄ってきてくれるんだよ」
おふくろはこう言うのです。
「お店は家だ。好きな人の家に遊びに行くのが居酒屋だよ。嫌いな人の家には遊びに行きたくないよね?
好かれる人間になってあんたに会いたいと遊びに来てくれる人がお客さんなんだよ。
せっかく来てくれたんだからおいしいものを出そう、楽しんでもらおう、驚かせようと思うんだよ。
お客さんに来てもらうために、おいしいものをつくるのでも、楽しいことをするのでも、驚かせるのでもないんだよ。
この違いが大切なんだよ」
よくよく考えてみれば、おふくろの居酒屋にやって来るお客さんたちは、誰もがみんなおふくろに会いに来ているのです。
こんな立地の居酒屋に、通りがかりで何となく入ったなどということはありえません。
つまり、お客さんは全員、おふくろに会うために、わざわざ「岡むら」を目指してやって来てくれているのです。
私はこのことに気づかされました。
おふくろの人望の厚さ、篤実さに胸が打たれる思いでした。
「好かれる人間になれば、周りの人たちが寄ってくる」
実に何気ない言葉です。
でも、何気ないがゆえに忘れがちな、大事なことなのです。
おふくろに言われて、私は「そうか!」とひらめきました。
商売繁盛を考えるのではなく、まず「自分繁盛」を考えることが大事なんだ!
商売繁盛を考える前に、いかに自分が好かれる人間になるか、自分自身をどう繁盛させるかを考えたほうがいいんだ!
このときから「自分自身がどう繁盛するか」が、私のテーマになったのです。
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「看板のない居酒屋」
岡村佳明 著
現代書林より
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