
世の中に自分より可愛い者はいない。
と、そう合点がついたなら、それと同じように、人も可愛がってやらねばならぬのじゃ。
ここは先に言った、自分の悪いことは、人にも悪いことと考えるところを反対に言ったまでで、
自分が欲しいものなら、人もやはり欲しいものじゃから、自分を愛する気持ちで、人も愛せよと言われたのじゃ。
人間には誰にでも、天から受けてきた使命がある。
百千万人が百千万人とも、皆その顔が違っているように、皆千差万別の使命がある。
それが人間の天職というもので、その天職を行うまでの話じゃ。
食うて生きるということなんぞは、働いてから先の話じゃが、
「禄その中にあり」と言ったのでは、間尺に合わんと思う者が多いのじゃ。
そこで天職の遂行よりも、衣食が先になり勝ちとなる。
立派な奥さん方が万引きなんどをするようになるのも、一時の出来心と言って済まされんのじゃ。
心に曇りが掛かっているからのことで、「君子は見ざるに慎み、聞かざるに懼る」
慎独(しんどく)の工夫が欠けているから、事々に迷いの雲だらけとなるのじゃ。
引用:
「大西郷遺訓」大西郷遺訓出版委員会
編集K&Kプレス
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