
世界最大の漢和辞典『大漢和辞典』を編さんした、諸橋轍次という人がいる。
この『大漢和辞典』を出したのが大修館という出版社だ。
その大修館が、昔のことだけど、一度つぶれそうになった。
月給も払えないから、社員もいなくなってしまった。
そこで大修館の社長には息子が二人いて、一人はいまの東大、もう一人は医者の卵で慈恵医大に通っていた。
それが二人とも学校を辞めて、手弁当で大修館で働いて、父親を支えたんだ。
結果、『大漢和辞典』は全一六巻、数十年をかけて完成することができた。
名門校を中退してまで、親を助けるなんて、これは本当に美しい話だと思う。
でも、当時は当たり前だったんだ。
金がないんだから、家族が手伝うのは当然だった。
それで終わる話だったんです。
それがなぜ、いま美談になっているかといえば、やるやつがいないからですよ。
そのくらい日本国家の程度は下がっているということ。
いまの若い人には、ぜひこのような逸話を知ってもらいたいと思います。
引用:「魂の燃焼へ」
執行草舟 著
清水克衛 著
イースト・プレス
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