
何の商品でもそうですが、それをお客さんに買っていただくということは、なかなかむずかしいものです。
「この品物は非常にすぐれたものですから、ぜひ買ってください」と言うだけで買っていただける場合もないわけではありません。
しかし、普通はそれだけでは、なかなかうまくいかないのが商売です。
ですから、商売に熱心な人は、どういうふうにすればお客さんに商品を買っていただけるかを常に考え工夫し実行しているのです。
私は、サラリーマンの場合も、いうなればこの売りこみの技術というものを大いに考えなければならないと思います。
つまり、自分が考えた一つの案が、仕事を進めるにあたって、会社として、あるいは職場において採用してもらえるか不採用になってしまうかということは、もちろんその案自体の内容にもよりますが、やはりある程度は、売りこみ方いかんによるのではないかと思うのです。
いいかえれば、上司をして、あるいは社長をして「君の提案はすばらしい、今までのものは廃棄しても君の案を用いたほうがよいようだ」ということで、喜んで用いてもらえるような説明の仕方、理解を得られるような接し方、これがサラリーマンとして大切な一つの技術といえましょう。
もし、そのような技術にそれほど関心をもたず、みずから説得の工夫をすることもなしに、「うちの上司や幹部は話が分からない」と投げ出してしまったり、不平満々であるならば、自分にとってはもとより会社にとっても大きなマイナスです。
商品を売りこむについては、やはり商品のもつ力が第一にものをいいますが、いくらいい品物でも、売りこみ方が下手では、うまく売れていきません。
日々のサラリーマンとしての仕事においても、まず基本的に大事なのはそれぞれの人がもつ実力で、だから、これを養い高めていくことに、絶えざる努力をしていかなければならないことはいうまでもありませんが、それとあわせて、自分の実力を誠心誠意訴え、理解を得ていくという技術を工夫することもきわめて大切だと思うのです。
引用:松下幸之助 著
『人生心得帖 社員心得帖』PHPビジネス新書
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